大阪夷左翁寿司(大阪府大阪市:曽根崎お初天神近く)
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その2 もう一息 一覧に戻る
T: 新年度になり、気分も新たによもやまをはじめたいと思います。{(注)今回は、かなり長いので、読むのがしんどい方は、店に聞きに来てください}
O: ほんまに、早いねーもう4月やて、でも4月は、なんか心身ともに新しくなるようで、私は、大好き。
T: でも、4月になると1つ歳とるで・・・
O: ほっといて!!
T: まぁそれはさておき、この時期になると、当店にも新入社員の人達を連れて来られるお客様が、多くなるなー。
O: そうそう、今年は、どんな人達が来られるのか楽しみやわ!今年も、お客様に「大将、何か一言アドバイスしてやってくれ」と言われるんとちゃう?
T: そやなー まぁアドバイスという程のもんじゃないけど、いつも言ってるように、「あと一息」をわかる人になってください。と言うことぐらいかな。
O: 「あと一息をわかる人」と言っても、ようわからんから、一応ここで説明しといたら。
T: じゃ今回は特別に。わしら職人の世界と、サラリーマンの世界では、ちょっと違うので、わかりにくいかも知れんけど・・・
O: そんなもったいつけんでも
T: まぁわしら職人の世界では、この「あと一息」がわからんやつは、ずっと、上には上がられへん。
O: そんなにその「あと一息」というのは、すごいことなん。「もうちょっと」と言う意味じゃないの?
T: そういう意味もあるけど、もっと奥深いものやな。
O: 例えば?
T: 例えば、「あと一息を」覚えるのに、包丁とぎがある。まずボウズ(新入社員)は、親方から古い包丁を渡されて、研ぎ方を教えてもらい、包丁研ぎの練習をする。最初のうちは全然出来ないが、半年、一年するうちになんとなく研げるようになってくる。(あくまでも職人の包丁研ぎなので、家庭用の包丁を研ぐのとは、訳が違う為、一人前に包丁が研げるようになるまでに、時間がかかることをご了承願いたい)

しかし、自分では、よし完璧に研げたと思い、親方にみてもらうと、「あともう一息や」と言われる。そのあと一息というのが、あと2、3回なのかあと10回なのか、自分では、判らない。もうちょっとかなと思い研いでみると、今度は研ぎすぎて刃が返ってしまい、逆に切れなくなってしまう。

こういう事を繰り返しながら、ある日ふっと「あっ、あともう一息や」と、自分でも分かるようになり、そうなると、親方に見てもらっても、「よっしゃ、これでええ造りがひけるわ」と、なるのである。そうして、1段階ずつ「あと一息」を知りながら、上っていくんや。
O: なるほど、何となくわかったようなわからんような。
T: どっちやねん!!料理の味付けでも一緒や。その店のレシピ通り、親方のいわれたやり方通りに味付けしたとしても味をみてもらうと「一味足らん」といわれる。
当然何が足らんのかは教えてくれへんし、自分でも一体、塩味が足りないのか、甘みが足りないのか判らない。でも、だんだん「あっ、もうちょっと甘い方がいいなとか、もうちょっと塩味きかせたほうが、 味が引き締まるな」というように分かってくんねん。
O: 「あと一息」「あと一味」というのは、回数や分量じゃなく、その人が自分自身で得た何かやねんね。
T: そう、その人の積み重ねてきた経験のみが教えてくれるものやとわしは思う。無論、経験と言っても年数ではないし、経験だけじゃなく努力も学習も必要だし、その人の持った 感性や、ものに対する気持ちなど、言葉では、言い表せない微妙なものやと思う。
O: なるほど、その全部が合わさって「あと一息」が、自分の味になっていくんやね。
T: そういうことや。「あと一息」というのは、自分だけが分かる唯一の感覚で、自分で作り上げていくものなんや。なんかこうして改めて、若い頃のことを思い出すと、先輩や親方に「あと一息やな」と言われて、 悔しい思いをしたことも何回もあったけど、その「あと一息」と言う言葉には愛情がこもってたんやなーとあらためて思うなー。
ちゃんと基本は出来てるけど、あとこれになんかおまえ自身の味を加えて、おまえだけにしか出せない味を作ってみろと、いうことやったんやなー
O: そうやね、「全然あかん」と違って「あと一息」やもんね。みんなそうやって、自分だけの味を作り出してきたし、これからも作り出していくんやね。
T: そうや。そして最後にこれだけは、覚えておいてほしいな。包丁も研ぎすぎると逆に切れなくなるということを。
O: なるほど。これもまた意味深い言葉やね。でも今回は、これで終わりましょうか。
今年の新入社員の人達ヘのアドバイスは、この「あと一息」をわかる人になってくださいということで、職人さんと、サラリーマンの人達とは少し環境が違うと思いますが、要は、自分で納得し、人にも認められ、且つ、自分にしか出来ない仕事が、出来るように、自分の五感をフルに活用し、時には、第六感も総動員して頑張っていってください。
T: 2年後3年後・・・・・に、今よりももっといい顔になっているよう心より願っております。
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